1959年に創業し、約60年にわたって神保町の食文化を支えた天ぷら専門店「いもや」。天ぷら定食800円(税込)という価格で揚げたての本格天ぷらを提供し続けたこの店は、2018年3月に本店が惜しまれつつ閉店しました。
「いもやってどんなお店だったの?」「閉店した今でも、あの味は食べられるの?」と気になっている方は多いのではないでしょうか。特に神保町の古書街を訪れる際に、かつての名店の記憶をたどりたいという声は今も絶えません。
この記事では、天ぷらいもやの創業から閉店までの歴史、伝説的なメニューの全容、そして現在もその味を受け継ぐ後継店の情報まで、余すところなくお伝えします。まず創業の経緯と基本情報を押さえ、次にメニューと店内の魅力を振り返り、最後に今でもいもやの味を楽しめる後継店をご紹介します。
天ぷらいもやの基本情報|神保町が生んだ庶民の名店
天ぷらいもやは、1959年(昭和34年)に宮田三郎氏が東京都千代田区神田神保町で創業した天ぷら専門店です。当初は焼き芋屋を営んでいた宮田氏が、天ぷら屋へと業態を転換してスタートしたことから「いもや」の屋号が付けられました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | いもや |
| 創業 | 1959年(昭和34年) |
| 創業者 | 宮田三郎氏(1912年生まれ) |
| 所在地 | 東京都千代田区神田神保町(本店) |
| アクセス | 神保町駅から徒歩約3分 |
| 座席数 | カウンター7席 |
| 営業時間 | 平日 11:30〜14:15 / 17:00〜18:15、土 11:30〜14:15 |
| 定休日 | 日曜・祝日・第1/3/5土曜 |
| 閉店日 | 2018年3月31日(本店) |
| 価格帯 | 天ぷら定食 800円〜(税込、閉店時点) |
カウンターわずか7席という小さな店内は、昼時になると出版社の編集者やサラリーマン、学生たちで行列ができるのが日常でした。神保町には出版社や大学が密集しており、安くて早くて旨い天ぷらは、この街で働き学ぶ人々にとって欠かせない存在だったのです。
天ぷらいもやの歴史|創業から閉店までの60年
創業期(1959年〜1970年代):焼き芋屋から天ぷら屋へ
創業者の宮田三郎氏は、もともと神保町界隈で焼き芋の商売をしていました。当時の神保町は古書店と出版社が密集する「本の街」として活気づいており、多くの労働者が手頃な昼食を求めていました。この需要に応える形で、宮田氏は天ぷら屋への転身を決意します。
開業当初から「安くて旨い天ぷらを」というコンセプトは一貫しており、高級天ぷら店が数千円のコースを提供する中で、いもやは数百円の定食で本格的な天ぷらを提供し続けました。この価格設定は、神保町で働く人々の日常食としての天ぷらという位置づけを明確にしたものです。
拡大期(1980年代〜2000年代):複数店舗と暖簾分け
最盛期のいもやは、神保町エリアに天ぷら店と天丼店の複数店舗を展開していました。同じ建物の中に天ぷら専門の入口と天丼専門の入口が並び、一つの厨房で両方をまかなうという独自のスタイルが話題を呼びました。
この時期には暖簾分けによる独立店も生まれ、いもやの味は東京から地方へと広がりを見せます。暖簾分けを受けた店舗は、それぞれの地域で「いもやの天ぷら」を継承していきました。
閉店(2018年):惜しまれつつの幕引き
2018年3月31日、いもや本店は約60年の歴史に幕を下ろしました。閉店の報道が流れると、SNS上には「もう食べられないのか」「神保町の宝が消える」と惜しむ声が数多く寄せられました。閉店当日には長蛇の列ができ、最後の一品まで多くのファンが見届けたと伝えられています。
閉店の理由は公式には発表されていませんが、創業者の高齢化や後継者問題が背景にあったとされています。しかし、暖簾分けを受けた後継店が各地で営業を続けており、いもやの味は完全に途絶えたわけではありません。
いもやの伝説的メニュー|800円天ぷら定食の全貌
いもやのメニューは、驚くほどシンプルでした。余計な選択肢を排し、天ぷらの本質だけを届けるという潔さが、多くの常連客を惹きつけた理由の一つです。
定食メニュー一覧
| メニュー名 | 価格(税込) | 内容 |
|---|---|---|
| 天ぷら定食 | 800円 | 海老・イカ・キス・カボチャ・春菊の天ぷら5品 + ごはん + 味噌汁 |
| えび天定食 | 1,000円 | 海老2本を含む天ぷら5品 + ごはん + 味噌汁 |
単品メニュー(追加注文用)
| 食材 | 価格(税込) |
|---|---|
| いも / かぼちゃ / いんげん | 各100円 |
| いか / きす | 各200円 |
| えび | 250円 |
(価格は閉店時点のものです)
このメニュー構成を見て気づくのは、天ぷら1品あたりのコストパフォーマンスの高さです。天ぷら定食800円を5品で割ると、1品あたり約160円。ごはんと味噌汁込みでこの価格は、2018年時点の東京の外食価格としても破格でした。
職人視点から見たいもやの揚げ技術
いもやの天ぷらが支持された理由は、価格だけではありません。カウンター越しに目の前で揚げられる天ぷらは、高級店のそれと遜色のない技術で仕上げられていました。
衣は薄く軽やかで、素材の味を邪魔しない仕上がりが特徴です。特に海老天は、尾までカリッと揚がり、身はふっくらとした食感を保っていました。天ぷらの揚げ方のコツとして語られる「衣は冷水で手早く混ぜる」「油温は170〜180度を維持する」といった基本を、職人が忠実に守り続けた結果です。
油はごま油とサラダ油のブレンドを使用していたと言われており、ごま油の香ばしさとサラダ油の軽さのバランスが、いもや独自の風味を生み出していました。この油の配合については、天ぷら油のおすすめ比較記事でも詳しく解説しています。
いもやの空間と体験|カウンター7席が生む親密さ
実際にいもやを訪れた人々が口を揃えて語るのは、あの狭い空間が生み出す独特の親密さでした。
カウンター7席のみという構成は、物理的な制約から生まれたものですが、結果としていもやの最大の魅力になりました。目の前で職人が天ぷらを揚げ、揚げたてをそのまま皿に盛りつけてくれる。その一連の動作を間近で見られるライブ感は、高級カウンター天ぷらの名店と同じ体験価値を、800円という価格で提供していたことになります。
常連客の間では「カウンターのどこに座るか」も話題でした。職人の手元がよく見える中央の席が人気で、「左端は味噌汁が先に出てくる」といった細かな違いが、通い慣れた客の間で共有されていました。
白木のカウンターは長年の使用で飴色に変わり、それ自体が店の歴史を物語っていました。このカウンターの一部は、後継店「神田天丼家」に移設され、今も現役で使われています。
いもやが愛された5つの理由
なぜ、わずか7席の小さな天ぷら屋がこれほど多くの人に愛されたのか。その理由を整理します。
| 理由 | 具体的な特徴 |
|---|---|
| 圧倒的なコストパフォーマンス | 天ぷら定食800円は東京都内の天ぷら店として最安水準 |
| 揚げたてのライブ感 | カウンター7席で職人の技を目の前で体験 |
| メニューの潔さ | 2種類の定食に絞り、迷いなく注文できる |
| 立地の利便性 | 神保町駅徒歩3分、出版社街のど真ん中 |
| 60年間変わらない味 | 創業から閉店まで一貫した品質と価格設定 |
この5つの要素は、現代の天ぷら店経営にも示唆を与えてくれます。天ぷら屋の開業費用を考える際に、いもやのようなシンプルなメニュー構成とコンパクトな店舗設計は、開業コストを抑えながら高い顧客満足度を実現するモデルケースと言えるでしょう。
味を受け継ぐ後継店ガイド|いもやの天ぷらを今も食べられる場所
いもや本店は閉店しましたが、暖簾分けを受けた後継店が現在も営業を続けています。いもやの味を今でも体験したいという方のために、後継店の情報をまとめました。
後継店一覧
| 店名 | 所在地 | 業態 | いもやとの関係 |
|---|---|---|---|
| 神田天丼家 | 東京都千代田区神田神保町 | 天丼 | 旧「天丼いもや」が移転・改称。本家の天丼を直接引き継ぐ |
| いもや | 東京都千代田区神田神保町 | 天ぷら | 暖簾分け店舗として営業継続 |
| 天婦羅いもや | 東京都足立区(北千住) | 天ぷら | 暖簾分けにより味を継承 |
| いもや | 青森県弘前市 | 天ぷら | 地方への暖簾分け店舗 |
| いもや | 東京都中央区(馬喰町)/ 栃木県 | とんかつ | いもやの系列として独立 |
(2026年6月時点の情報です。営業状況は各店にご確認ください)
特に注目:神田天丼家
後継店の中で最も注目すべきは「神田天丼家」です。旧「天丼いもや 一丁目天丼店」が九段方面に移転し、店名を変更して営業を続けています。
注目すべきは、いもや本店で使われていた白木のカウンターを磨き上げて移設している点です。あの飴色のカウンターに座れば、本家いもやの雰囲気を最も近い形で体験することができます。天丼の味も、甘みを抑えた関東風のタレを引き継いでおり、往時を知る常連客からも「いもやの味そのもの」と評価されています。
特に注目:神保町「いもや」(現存店)
神保町の暖簾分け「いもや」は現在も営業を続けています。カウンター7〜8席の小さな店舗で、天ぷら定食1,000円(税込)・えび天定食1,200円(税込)という価格設定です。本店時代より若干値上がりしていますが、東京都内の天ぷら専門店としては依然として破格の水準です。食べログでは3.50(口コミ500件以上)の高評価を維持しており、平日のランチ時には今も行列ができることがあります。季節によっては稚鮎やはも、穴子など旬の単品天ぷら(100〜300円)も提供されています。
特に注目:天婦羅いもや(北千住)
北千住の「天婦羅いもや」は、暖簾分けを受けた天ぷら店として、神保町時代の味を忠実に再現しています。定食の構成や揚げ方のスタイルは本家を踏襲しており、「神保町のいもやを知っている人なら懐かしさを感じるはず」と言われています。
神保町の天ぷら文化|いもやが残した遺産
いもやの存在は、神保町という街の食文化そのものに深く根付いていました。神保町は古書店街として知られますが、同時に「安くて旨い飲食店の宝庫」としても評価されています。この「庶民の食の街」としての神保町の評判を作り上げた立役者の一つが、まさにいもやでした。
天ぷらの歴史を振り返ると、天ぷらは江戸時代に屋台料理として庶民に親しまれた食文化です。いもやは、その「庶民の天ぷら」という原点を昭和から平成にかけて体現し続けた稀有な存在でした。
江戸前天ぷらとは何かを考える上でも、いもやの功績は見逃せません。ごま油のブレンドによる香ばしい揚げ油、素材を活かす薄衣、そしてカウンター越しに揚げたてを提供するスタイルは、いずれも江戸前天ぷらの伝統を色濃く受け継いだものです。
現在の神保町にも天ぷらの名店は残っていますが、いもやのように「定食800円で揚げたての本格天ぷら」を提供する店は、残念ながら見当たりません。物価上昇の影響もありますが、いもやの価格設定がいかに異例であったかを物語っています。
天ぷらいもやに関するよくある質問
Q1: いもやは完全に閉店してしまったのですか?
神保町の本店は2018年3月31日に閉店しました。ただし、暖簾分けを受けた後継店が東京都内(神田天丼家、北千住の天婦羅いもや)や地方(弘前)で営業を続けています。本家と同じ味を楽しみたい場合は、これらの後継店を訪れることをおすすめします。
Q2: いもやの天ぷら定食はいくらでしたか?
閉店時点で天ぷら定食800円(税込)、えび天定食1,000円(税込)でした。海老・イカ・キス・カボチャ・春菊の5品にごはんと味噌汁が付くという構成で、東京都内の天ぷら店としては破格の価格設定でした。
Q3: 神田天丼家はいもやの味と同じですか?
神田天丼家は旧「天丼いもや」が移転・改称したお店で、天丼の味は本家を直接引き継いでいます。いもや本店のカウンターも移設されており、雰囲気も含めて最も本家に近い体験ができると評価されています。
Q4: いもやのような安い天ぷら定食は今でもありますか?
800円台で本格天ぷら定食を提供する個人店は現在の東京では極めて少なくなっています。チェーン店では、[天ぷらまきの](https://tempura-navi.jp/tempura-famous-shops/tempura-makino/)の野菜天定食が1,210円(税込)、てんやの天ぷら定食が700円前後で、比較的手頃な価格帯です。[天ぷらランチのおすすめガイド](https://tempura-navi.jp/tempura-famous-shops/tempura-lunch-guide/)でも、コスパの良い天ぷら店を紹介しています。
Q5: いもやの閉店理由は何ですか?
公式な閉店理由は発表されていません。創業者の宮田三郎氏の高齢化や後継者の問題が背景にあったと言われていますが、詳細は明らかにされていません。60年近く愛された名店の閉店は、飲食業界における個人店の事業承継の難しさを象徴する出来事でもありました。
Q6: いもやはどのような客層に人気でしたか?
神保町という立地から、出版社の編集者、大学生、サラリーマン、タクシー運転手など幅広い層に支持されていました。特に昼時は行列が常態化しており、「神保町で昼食に迷ったらいもや」という定番ルートが存在していました。
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まとめ:天ぷらいもやが教えてくれること
天ぷらいもやが約60年にわたって神保町で愛され続けた理由を振り返ると、以下のポイントが浮かび上がります。
- 1959年創業、カウンター7席の小さな天ぷら専門店として約60年間営業
- 天ぷら定食800円という破格の価格で、揚げたての本格天ぷらを提供
- メニューはわずか2種類の定食に絞り、品質とスピードに全集中
- 暖簾分けにより後継店が5店舗以上残り、今もいもやの味を体験可能
- 「庶民の天ぷら」という江戸時代からの食文化を現代に受け継いだ存在
いもやの味を体験したい方は、まず神保町の「神田天丼家」を訪れてみてください。本家のカウンターが移設されており、最も近い形でいもやの雰囲気を感じることができます。天ぷらの方を楽しみたい場合は、北千住の「天婦羅いもや」がおすすめです。
東京の天ぷらの老舗や名店ランキングに興味がある方は、あわせてこちらの記事もご覧ください。
参考情報
- Retty グルメニュース「神保町の名店『いもや』が明日閉店」(https://retty.news/35124/)
- ure.pia.co.jp「神保町『いもや』が閉店。愛され続けた名店の知られざる歴史&美味の秘密を聞いた」(https://ure.pia.co.jp/articles/-/179313)
- 食べログ「いもや – 神保町/天ぷら」(https://tabelog.com/tokyo/A1310/A131003/13131365/)
- 食べ歩き うまログ「神田天丼家 – いもやの天丼は永遠なり」(https://umalog.jp/2022/07/29/tendonya/)


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