最終更新: 2026-08-02
農林水産省が「うちの郷土料理」として認定しているとり天(鶏の天ぷら)——その発祥地が大分県別府市だということを知っているだろうか。1930年代、別府市の「レストラン東洋軒」初代・宮本四郎が「鶏ノカマボコノ天麩羅」として提供したのが始まりとされ、その後大分県全域に広まって今では県民のソウルフードとなっている。
大分は「ただ温泉があるだけの観光地」ではない。東に豊後水道、別府湾、南は日向灘と三方を海に囲み、関あじ・関さば・城下かれいという国内屈指の高級魚介が水揚げされる。この豊かな海の幸を衣でまとい、高温の油でサクッと揚げた天ぷらは、大分が誇るもうひとつのグルメ文化だ。
この記事では、とり天という「鶏肉天ぷらの革命」が生まれた歴史的背景から、豊後水道産の海の幸を使った本格天ぷら、さらに別府・大分市でおすすめの天ぷら店まで体系的に解説する。大分観光や出張の際の食の選択肢として活用してほしい。
とり天 — 大分が天ぷら文化に刻んだ革命の記録

「天ぷら」といえば海老や野菜を思い浮かべる方が多い。しかし大分の人々にとって、天ぷらとはまず「とり天(鶏の天ぷら)」から始まる。
とり天の誕生と歴史
とり天の発祥は別府市にある「レストラン東洋軒」とされる。創業者・宮本四郎が昭和初期に、柔らかく食べやすい鶏肉を天ぷら衣でくるんで揚げた「鶏ノカマボコノ天麩羅」を発案したのが始まりだ。
当時の別府は全国屈指の温泉観光地として発展途上にあり、旅館や飲食店が増加していた時期だった。東洋軒は中国料理店として出発したが、宮本が日本の天ぷら技法と融合させる形で「鶏の天ぷら」を生み出した。この発想の転換——肉を天ぷらにするという試み——は当時として画期的だったと伝わる。
農林水産省の「うちの郷土料理」データベースには、とり天が大分県の代表的な郷土料理として正式に記録されている。その説明によれば、大分ではニンニク・生姜・醤油ベースのタレでつけ込んだ鶏肉に、溶き卵を使った衣をつけて揚げるのが一般的なスタイルだ。食べるときはポン酢やからしマヨネーズで供する。
とり天と唐揚げの違い
大分は「からあげ専門店日本一の都市」として知られるが(中津市・宇佐市を中心としたからあげベルト)、とり天はからあげとは異なる。
| 比較項目 | とり天 | 大分からあげ |
|---|---|---|
| 下味 | 醤油・生姜・ニンニク(比較的薄め) | 醤油・ニンニク・生姜(濃いめ・時間をかける) |
| 衣 | 天ぷら衣(薄力粉+卵+水)。薄め | 片栗粉または薄力粉+片栗粉。厚め |
| 食感 | サクッと軽く、肉はジューシー | カリッとした硬い食感 |
| 食べ方 | ポン酢・からしマヨが定番 | そのまま・レモン |
| 大きさ | 一口大〜ひとかけら | やや大きめ |
とり天はあくまで「天ぷら(揚げ物料理)の一種」として位置づけられており、衣の技術・油温管理の考え方は海老天や野菜天ぷらと共通する。鶏肉の特性に合わせた揚げ温度(170〜180℃、4〜5分)を守ることで、外はサクサク・中はジューシーに仕上がる。
大分でとり天を食べるべき店
「レストラン東洋軒」(別府市北浜2-4-24)は現在も営業を続けており、発祥のとり天を今も提供している。提供形式はフルコースから定食まで様々で、「元祖とり天定食」は観光客にも人気の定番メニューだ。
なお、大分市内のスーパーや惣菜店でもとり天は日常的に売られており、地元の人々はとり天弁当・とり天定食を気軽に食べる文化が根付いている。
豊後水道の恵み — 大分の海の幸天ぷら

大分の天ぷら文化はとり天だけではない。東の豊後水道に育つ良質な魚介類は、天ぷらのネタとして全国トップクラスの品質を誇る。
関あじ・関さば
「関あじ(せきあじ)」「関さば(せきさば)」は、大分市南端の佐賀関(さがのせき)沖の豊後水道で1本釣りされた高級魚だ。豊後水道は九州と四国の間に位置し、瀬戸内海から太平洋への潮流が激しく交差する。この急流に鍛えられた魚は身が引き締まり、脂のりが格別だといわれる。
| 魚種 | 特徴 | 旬 | 天ぷらとしての魅力 |
|---|---|---|---|
| 関あじ | 1本釣り・活け締め。身が締まり甘み強い。鮮度が落ちにくい | 4〜9月(夏が最盛期) | 衣をつけて高温で揚げると旨みが凝縮。塩でいただくのが最上 |
| 関さば | 腹壊れなしの鮮度が売り。脂がのり青魚特有の臭みが少ない | 9〜3月(秋冬が旬) | 天ぷらにすると青魚の風味が中に閉じ込められ独特の美味しさ |
関あじ・関さばを使った天ぷらを出す店は大分市内の一部の割烹・料亭・天ぷら専門店に限られる。魚全体の天ぷら技術については魚の天ぷらの揚げ方ガイドでも解説しているのであわせて参照してほしい。
かぼすブリ・豊後マグロ
秋冬になると「かぼすブリ」も注目の食材だ。大分名産のかぼす(大分県の生産量が全国シェア約95%を占める)を飼料に混ぜて育てたブリで、さっぱりとした風味とほどよい脂が特徴だ。天ぷらよりも刺身・しゃぶしゃぶで食べることが多いが、薄切りにして衣をつけた「かぼすブリ天」は大分ならではの料理体験だ。
また、津久見市や臼杵市を中心とした豊後水道沿岸では通年マグロの養殖が行われており、「豊後マグロ(ようごまぐろ)」は脂がのった大型マグロとして知られる。地元の漁師料理として天ぷらにされることもある。
城下かれい — 大分が誇る「幻の魚」を天ぷらで味わう
大分の海産物の中でも最も希少かつ高貴とされるのが「城下かれい(じょうかかれい)」だ。
城下かれいとは何か
城下かれいは、大分県速見郡日出町(ひじまち)の沿岸——旧日出藩の城(日出城)の下の海から獲れるマコガレイを指す。日出城の石垣の下付近に豊富な湧き水(淡水)が湧き出ており、海水に淡水が混じった汽水域がカレイの生育環境として特別な環境を作り出す。
この独特の環境で育ったカレイは、通常のマコガレイと比べて以下の特徴を持つ。
- 泥臭さがない: 淡水が混じる環境のため、通常の海底泥のにおいが少ない
- 身が白く透明感がある: 鮮度が非常に高いため身が透き通り、熟成すると飴色になる
- 肉厚: 頭が小さく、可食部の割合が高い
- 旬は5〜7月: 夏前が最も脂がのる
江戸時代には日出藩主(木下氏)が将軍家への献上品として差し出した記録があり、「一枚一両(当時の高額)」と評されたほどの珍味だった。現在でも漁獲量が少なく(市場に出回る量は年間数百kgとも言われる)、値がつけにくい幻の魚として扱われている。
城下かれいの天ぷらとは
城下かれいは通常「薄造りの刺身」「煮付け」「唐揚げ」で食べることが多い。天ぷらにすることは比較的稀だが、薄めにそぎ切りにして衣をつけた城下かれい天は旨みがギュッと凝縮され、非常に風味が豊かだ。
食べられる場所は日出町内の旅館・料亭、または大分市内の高級割烹の季節メニューに限られる。旬(5〜7月)に合わせて訪問するか、事前に予約して食材の確保状況を確認することを強くすすめる。
大分のおすすめ天ぷら店ガイド
大分県には「天ぷら専門店」として構えた店の数はそれほど多くないが、丁寧に揚げた天ぷらを供する料理店・定食屋・割烹は別府・大分市を中心に存在する。
大分市内のエリア別紹介
大分市中鶴崎エリア
大分市中鶴崎は工場地帯・漁港にほど近いエリアで、地元の職人が集う渋い飲食店が並ぶ。「正統派の天ぷら専門店」として長年地元に親しまれる店があり、カウンター・テーブル・個室(座敷)から選べる構成で、揚げたての天ぷらを1つずつ提供するスタイルだ。ランチは11:30〜14:00、ディナーは17:30〜22:00(日曜・祝日定休)。駐車場20台完備のため車での来店にも便利だ(事前に営業状況の確認を推奨)。
大分市府内町・中心部
大分市の中心商業エリアに位置する府内町には、昼の天ぷら定食ランチを出す老舗食堂が点在する。「天ぷら定食1,000円前後(旬の食材8種)」という親しみやすい価格帯で提供している店が特に長年の支持を集めており、11:00〜14:30の昼営業が中心だ。
別府市内
別府温泉街の周辺には観光客向けから地元民御用達まで多様な天ぷら店がある。とり天定食を出す店から、海鮮天ぷらを中心に据えた割烹まで幅広い。別府駅東口〜北浜エリアは夕食の天ぷら店探しに最適だ。
大分の天ぷらを体験できる形式
| 形式 | 価格帯 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 天ぷら定食(昼) | 800〜1,500円 | とり天・野菜・海老が揃う基本セット。ごはん・汁物付き | コスパ重視の方・観光の昼食に |
| 天丼・天ぷら丼 | 900〜1,800円 | ごはんにのせた形式。テイクアウトにも対応する店が多い | 手軽に天ぷらを楽しみたい方 |
| 天ぷらコース(割烹) | 3,000〜8,000円 | カウンターで1品ずつ揚げたて提供。関あじ・城下かれいが入ることも | 特別な食事・接待・記念日に |
| とり天定食 | 700〜1,200円 | 大分のソウルフードを堪能。ポン酢かからしマヨで | 大分ならではの食体験を求める方 |
なお、大分県内の天ぷら店の最新情報は食べログ(tabelog.com/tempura/oita/)やRetty(retty.me)で随時確認できる。
大分観光と組み合わせる天ぷらグルメプラン
大分は食と観光の両方を楽しめる県だ。天ぷらを中心に据えた1日プランを提案する。
別府エリア1日モデルプラン
午前: 別府温泉の「地獄めぐり」観光(血の池地獄・龍巻地獄など)
昼食: 北浜エリアでとり天定食ランチ(元祖東洋軒またはとり天専門店)
午後: 別府市内散策。竹瓦温泉でひと風呂
夕食: 関あじ・関さばを海鮮割烹か居酒屋天ぷらで
ポイント: 別府は源泉数が約2,847本(環境省温泉データ)と日本最多。温泉と天ぷらのセットは大分ならではの贅沢だ。
日出町1日プラン(城下かれい特化)
午前: 日出城址観光(国史跡。日出城の石垣からは別府湾を一望できる)
昼食: 日出町内の料亭で城下かれい定食またはコース(旬は5〜7月)
午後: 速見郡日出町のかれい漁港・道の駅「日出生台」などを見学
夕食: 別府または大分市に移動し天ぷら専門店でフィニッシュ
ポイント: 城下かれいの旬(5〜7月)に合わせた訪問が最もおすすめだ。8月訪問では食べられない場合もあるため事前確認を徹底したい。
大分市エリア半日プラン
昼食: 大分駅周辺の天ぷら定食店でランチ。地魚天ぷら定食を選ぶ
午後: 大分市うみたまご(水族館)や府内城址を観光
夕食: 中鶴崎や都町(大分の歓楽街)エリアで天ぷらコース
大分市はJR特急「ソニック」で博多から約1時間45分、「にちりん」で宮崎から約2時間30分とアクセスが良好だ。九州旅行の中で立ち寄るルートに組み込みやすい。
隣の熊本や福岡の天ぷら文化との違いを比較したい方は福岡の天ぷらガイドや熊本の天ぷらガイドもあわせて参照されたい。
大分の天ぷらに関するよくある質問(FAQ)
Q1. とり天と天ぷら(海老や野菜)の天ぷらはどちらが大分らしいですか?
A. 大分の誇りは「とり天」だが、豊後水道の海の幸を使った海鮮天ぷらも大分ならではだ。とり天は日常の食文化として定着しており、特別な食事では関あじ・関さばを使った海鮮天ぷらコースが非日常の体験として喜ばれる。「大分らしさ」を一番感じるなら、まずとり天を押さえたうえで海鮮天ぷらも体験するのが理想的だ。
Q2. 城下かれいはいつでも食べられますか?
A. 旬は5〜7月で、特に産卵前の6〜7月が最も脂がのる時期とされる。8〜10月は市場に出回る量が大幅に減り、食べられる店が限られる。冬から春も城下かれいは漁獲されるが、夏前の旬にはかなわない。日出町の料亭・旅館では通年提供している場合もあるが、事前に確認してから訪問することを強くすすめる。
Q3. 大分の天ぷら店は予約が必要ですか?
A. カジュアルな天ぷら定食店・とり天の食堂は基本的に予約不要だ。一方、割烹や天ぷらコース(関あじ・城下かれいなど高級食材を使うコース)は2〜3日前の事前予約が望ましい。特に土曜・日曜・連休は人気店が早々に埋まるため、旅行計画と同時に予約を入れておくと安心だ。
Q4. 大分名物のかぼすは天ぷらとも合いますか?
A. かぼすは天ぷらの添え物・搾り汁として絶妙に合う。特に海の幸の天ぷら(関あじ・城下かれい・海老など)に搾ると、かぼす特有の爽やかな酸味と清涼感が脂を流し、大分らしい後味になる。市販のポン酢の代わりにかぼす果汁を使うだけで「大分風天ぷら」が自宅でも楽しめる。
Q5. 大分の天ぷら店でベジタリアン・ヴィーガン対応はありますか?
A. 大分市内の一部の天ぷら専門店では「野菜天ぷらのみ」のコースや定食も対応している場合がある。ただし衣に卵を使うことが多く、厳密なヴィーガン対応は個別に確認が必要だ。精進揚げ(野菜のみ・卵なし衣)に対応している割烹があれば事前に電話で問い合わせると確実だ。
Q6. 大分から日帰りで行ける天ぷらの名所はありますか?
A. 大分市からJR・高速バスで1〜2時間の範囲に福岡(天神・博多の名店)と熊本(天ぷら料亭)がある。また、別府〜大分の間に位置する日出町(城下かれい)は電車で約30分とアクセスしやすい。北九州(小倉)には約1時間かかるが、下関のふぐと組み合わせたルートもおすすめだ。
Q7. 大分のとり天は家で再現できますか?
A. できる。ポイントは「鶏もも肉を一口大に切り、醤油・みりん・生姜・ニンニクで10〜15分下味をつけてから、薄めの天ぷら衣(薄力粉+溶き卵+少量の水)をつけて170〜180℃で4〜5分揚げる」という手順だ。食べるときはポン酢にからし・柚子胡椒を加えると大分の味に近づく。農水省「うちの郷土料理」サイトにも公式のとり天レシピが掲載されている。
関連記事: 天ぷら上野おすすめ8選|老舗から穴場まで予算別・シーン別に徹底紹介
まとめ — 大分の天ぷらは「多様性」の食文化
大分の天ぷらは一言で語れない豊かさがある。鶏肉を衣でくるんだとり天という革命的な発明、豊後水道の関あじ・関さばという最高品質の魚介、幻の城下かれいという江戸時代の格調——この3つが重なる食の多様性が大分の天ぷら文化の核心だ。
別府・大分市を訪れる際には、温泉とセットで天ぷらの食経験を充実させることを強くすすめる。とり天なら1,000円以下で気軽に楽しめ、海の幸コースなら5,000〜8,000円でプロの技術を味わえる。どちらの選択肢も「大分でしか体験できない天ぷら」を提供してくれる。
旬の食材を使った天ぷらの世界をより広く知りたい方は8月の旬の天ぷらガイドも参照してほしい。また、全国の天ぷら名店情報は天ぷら名店ランキングでも紹介している。
次の旅行計画に大分を加えるなら、ぜひ「食のプログラム」として天ぷらを最初に据えてほしい。
参考情報
- 農林水産省「うちの郷土料理:とり天(大分県)」(maff.go.jp)
- レストラン東洋軒「元祖とり天」公式サイト(toyoken-beppu.co.jp)
- 海と日本PROJECT in 大分県「日出町特産『城下かれい』を守る取り組み」(oita.uminohi.jp)
- 大分県「おさかな大浴場おおいた」特集記事 — 城下かれい・マコガレイについて(pref.oita.jp)
- edit Oita エディット大分「大分県のご当地海鮮グルメ 関あじ、関さばから」(edit.pref.oita.jp)
- OITA Drip.「揚げたてサクサクの天ぷらが楽しめる専門店5選」(oitadrip.jp)
- 環境省「温泉地の保護と利用のルール」— 別府温泉源泉数データ参照


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