「天ぷらの神様」と称される職人が、今日も一人で揚げ箸を握り続けている。東京・門前仲町の静かな住宅街の一角に佇む「みかわ是山居(ぜざんきょ)」は、早乙女哲哉氏が60年以上にわたって追い求めてきた江戸前天ぷらの到達点だ。
「みかわ」という名前を聞いたことがあっても、どんな店で、いくらかかり、どうすれば予約できるのかわからない——そう感じている人は多いだろう。老舗名店の敷居の高さが情報の入手を難しくしている面もある。
この記事では、みかわ是山居の成り立ちから早乙女哲哉氏の修業の歩み、おまかせコースの構成、予約・アクセス方法まで、訪問前に知っておきたい全情報を整理した。天ぷらの最高峰が何を目指しているのか——その答えもここにある。
記事の後半では、早乙女氏が語ってきた「揚げの哲学」も掘り下げる。江戸前天ぷらとはただ食材を油に通すことではなく、素材と向き合い続ける行為だということを、この記事を読み終えたときに感じてもらえれば幸いだ。
みかわ是山居とは——「天ぷらの神様」が守る江戸前の聖地

みかわ是山居は、東京都江東区福住に構える天ぷら専門店だ。2009年に現在の場所で営業を開始し、最寄りの門前仲町駅から徒歩約8分の距離にある。周囲は下町の気配が残る住宅街で、大通りから少し入ったところに佇む。
店名の「是山居(ぜざんきょ)」は、早乙女哲哉氏が大切にしてきた言葉から名付けられた。是山とは「ただ山にあり」を意味し、余計な装飾を排して本質だけを追い求める精神を表している。天ぷらという料理に対する姿勢そのものが、この名前に宿っている。
店内はカウンター席のみ。早乙女氏が目の前で一品一品を揚げる距離感が、みかわ是山居の最大の特徴でもある。料理はおまかせコースのみで、旬の食材が順々に供される。会話を楽しみながら職人の所作を間近で見られる環境は、天ぷら専門店ならではの醍醐味だ。
「世界でただひとつの店を目指す」——早乙女氏がインタビューで繰り返してきた言葉がある。流行に左右されず、江戸前天ぷらの本筋を守り抜く。それが、みかわ是山居が数十年にわたって食通を引きつけてきた理由だ。
東京都内のミシュランガイドでも継続して評価されており、日本を代表する天ぷら専門店の一つとして広く認知されている。日本人のみならず、海外からわざわざ訪れる食通も多い。
早乙女哲哉の軌跡——中学卒業の翌日から始まった修業

早乙女哲哉氏は1946年、栃木県生まれ。中学を卒業したその翌日から、東京・上野にある老舗天ぷら店「天庄(てんしょう)」に住み込みで修業を始めた。14歳からの修業人生のスタートは、現代では想像しがたいほどの覚悟を必要とした時代の話だ。
天庄での15年以上に及ぶ修業を経て、29歳で独立。最初の店「みかわ」を構えたのは1970年代のことだ。日本の高度経済成長が落ち着いた時期に、江戸前天ぷらの本流を守る店として歩み始めた。
独立後も、早乙女氏の研鑽は止まらなかった。天ぷら職人としての理想を追い求める過程で、素材の選び方、油の管理、衣の配合、揚げの温度と時間——あらゆる要素を突き詰めていった。
2009年、現在の「みかわ是山居」を江東区福住に開業。この店舗は、多彩なアーティストの作品を内装に取り入れた独特の空間としても知られている。食の世界と美術の世界が交差する場所として、文化人や芸術家の来訪も多い。
2021年11月、厚生労働省による「現代の名工(卓越した技能者表彰)」を受賞。天ぷら調理技術の向上・普及に貢献したとして国から正式に認められた。この受賞は、60年以上にわたる職人としての歩みを象徴する出来事だった。
> 天ぷらナビ編集部がみかわ是山居を訪問した際、早乙女氏がカウンター越しに語った言葉が印象深かった。「揚げるということは、素材の声を聞くことです。海老が何を伝えているか、油の温度が何を教えているか——それを感じ取れるようになるまで、長い時間がかかる」。60年を超えるキャリアの果てに辿り着いた言葉だからこそ、重みが違う。
みかわ是山居のおまかせコース——旬の素材と揚げの美学

みかわ是山居のメニューは「おまかせ一本」だ。季節によって内容は変わるが、おおむね10〜15品程度の天ぷらが順に供される。
食材の選定において、早乙女氏が最も重視するのは「旬」だ。旬を外れた素材は使わない——この原則を60年以上貫いてきた。8月であれば、旬を迎えたすずき・かんぱち・しまあじといった魚介類や、ゴーヤ・みょうがなど夏野菜が登場することがある。
天ぷらの出来を決める要素のひとつが油だ。みかわ是山居では、ごま油を主体とした独自の配合油を使用している。江戸前天ぷらの伝統に根ざしたごま油の香ばしさと、素材の旨みを引き出す配合——この組み合わせが、みかわ是山居ならではの味わいを作り出している。
代表的な食材と揚げの流儀
| 食材カテゴリ | 代表例 | みかわ是山居の特徴 |
|---|---|---|
| 魚介(白身) | 車えび・きす・はぜ | 活け締めにこだわり、素材の甘みを最大化 |
| 魚介(旬魚) | すずき・穴子・あじ | 8月旬の素材を中心に、季節ごとに変更 |
| 野菜 | 蓮根・みょうが・しし唐 | 素材の食感を生かす薄衣で仕上げる |
| かき揚げ | 海老・野菜の合わせ | コース終盤に供されることが多い |
衣は「薄衣」を基本とする。素材の形と色が透けて見えるほど薄い衣は、早乙女氏が長年かけて習得した技術の結晶だ。厚い衣で素材を包むのではなく、素材そのものを際立たせる——この思想が、江戸前天ぷらの核心にある。
揚げ温度は素材によって細かく調整される。海老は低温でじっくりと、しし唐は高温で素早く——それぞれの食材が最もおいしくなる温度と時間を見極めることが、熟練した職人の仕事だ。
みかわ是山居の基本情報——アクセス・予約・料金

店舗情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | みかわ是山居(ぜざんきょ) |
| 住所 | 東京都江東区福住1-3-1 |
| 最寄駅 | 東京メトロ東西線・都営大江戸線 門前仲町駅(徒歩約8分) |
| 席数 | カウンターのみ(数席) |
| メニュー | おまかせコースのみ |
| 予算 | 夜:25,000〜35,000円程度(時期による) |
| 定休日 | 火曜日(要確認) |
| 予約 | 電話予約(直接連絡) |
予算は時期や食材の仕入れ状況によって変動する。事前に電話で確認することを推奨する。なお、早乙女氏は「80歳を節目にコース代金を改定しようと思っている」と語ったこともあるため、最新情報は予約時に直接確認すること。
アクセスの詳細
門前仲町駅から徒歩約8分。大通りからは少し入った住宅街にあるため、初めての訪問では迷う可能性がある。事前に地図を確認した上で、余裕を持って向かうことをすすめる。
最寄りには富岡八幡宮がある。「深川八幡」とも親しまれるこの神社は、江戸時代から続く下町の象徴だ。天ぷらという料理が江戸の庶民文化から発展してきたことを考えると、みかわ是山居がこの地を選んだことには必然性がある。
予約について
みかわ是山居は予約必須の店だ。電話予約が基本となっており、ウェブ予約サービスには対応していない。人気店のため、週末・祝日の予約は特に取りにくい。平日の日程で連絡するか、数週間先の日程を指定することが現実的だ。
東京の予約困難な天ぷら名店として知られる店の一つでもあり、訪問を希望するなら計画的に動く必要がある。
早乙女哲哉の揚げの哲学——みかわ是山居を他の名店と分けるもの

早乙女哲哉氏が60年以上かけて培った揚げの哲学は、複数のキーワードで整理できる。
1. 一切妥協しない素材の選択
良い天ぷらは、良い素材から始まる。早乙女氏は旬を外れた食材は一切使わない方針を貫いてきた。車えびは活き車えびのみ使用し、魚介は鮮度が落ちれば供さない。この姿勢が、訪れるたびに異なる内容のおまかせコースを生み出す。
2. 油の管理に対する徹底した哲学
江戸前天ぷらの要はごま油だが、早乙女氏の油の管理は特別だ。油の温度管理、使用頻度、廃棄タイミング——これらを感覚と経験で制御できるまでには、修業で培った「油の声を聞く」ことが必要だと言う。
油の選び方については天ぷら油おすすめガイドでも詳しく解説しているが、職人レベルの油管理は家庭とは次元が異なる。
3. 「完成」を否定する姿勢
早乙女氏が繰り返してきた言葉がある——「今日の揚げが最高だとは思っていない。明日はもっと良くなると信じて揚げている」。60年以上のキャリアを持つ職人が、それでも完成を認めない。この姿勢こそが、みかわ是山居を他店と分かつ本質だ。
4. 江戸前天ぷらの継承への使命感
早乙女氏は自身の仕事を単なる「料理」ではなく、「江戸前天ぷらという文化の継承」として位置づけている。江戸前天ぷらとは何かを理解した上でみかわ是山居を訪れると、一皿一皿の意味がさらに深く感じられる。
みかわ是山居に行く前に知っておきたいこと
初めてみかわ是山居を訪れる人のために、事前に知っておくべきポイントをまとめた。
服装と心得
みかわ是山居はドレスコードこそ設けていないが、和の空間に合った服装が好ましい。カジュアルすぎる格好では場の雰囲気に馴染みにくいこともある。カウンターで職人と向き合う食事であることを意識した服装で臨みたい。
揚げたての天ぷらは、出されたらすぐに食べることが鉄則だ。温かいうちに食べることで、素材の旨みと衣のサクサク感が最も際立つ。写真撮影は常識の範囲内で行い、他の客の食事体験を妨げないよう配慮することが求められる。
アレルギーについて
おまかせコースのため、特定のアレルギーがある場合は予約時に必ず伝えること。海老・小麦・卵・ごまなど、天ぷらには主要アレルゲンが含まれる食材が多い。早乙女氏の店では誠実に対応してもらえるが、当日突然の申し出は難しいことも理解しておく必要がある。
周辺の見どころ
みかわ是山居への訪問前後に、門前仲町周辺を散策するのも良い。富岡八幡宮・深川不動堂などの歴史的スポットが徒歩圏内にある。下町情緒と職人文化が交差するこのエリアは、みかわ是山居が体現する江戸前の精神を体感するのに最適な場所だ。
他のカウンター天ぷら名店との比較
| 店名 | エリア | 特徴 | 予算目安 |
|---|---|---|---|
| みかわ是山居 | 門前仲町 | 江戸前天ぷらの本流・現代の名工 | 30,000円前後 |
| てんぷら近藤 | 銀座 | 野菜天ぷらの革新、野菜の厚揚げ | 25,000〜35,000円 |
| 天ぷらの近藤 | 銀座 | 素材の個性を引き出す繊細な揚げ | 20,000〜35,000円 |
| 天冨良 麻布よこ田 | 恵比寿 | ミシュラン複数星、30代若手職人 | 25,000〜45,000円 |
東京のミシュランガイド掲載天ぷら店を並べて比較すると、みかわ是山居が築いてきたポジションの独自性がよくわかる。
みかわ是山居 よくある質問(FAQ)
Q1. みかわ是山居はランチ営業をしていますか?
A. 基本的にはディナーのみの営業が中心ですが、時期によってランチ営業を行うこともあります。最新の営業情報は予約時に直接確認することをすすめます。
Q2. 一人でも入れますか?
A. カウンター席のみのお店のため、一人での訪問は歓迎されています。ただし予約は必須です。一人でカウンターに座り、早乙女氏の仕事を間近で見ることができるのがみかわ是山居の醍醐味の一つです。
Q3. 予算はいくら準備すればよいですか?
A. おまかせコースのみで、時期・食材によって変動します。現在は25,000〜35,000円程度を目安とすることが多いですが、飲み物代が別途かかることも踏まえ、予約時に確認することをすすめます。
Q4. 早乙女哲哉さん本人が揚げているのですか?
A. 基本的に早乙女哲哉氏自身が揚げを担当しています。これがみかわ是山居の大きな価値の一つです。ただし体調等によって変わる場合もあるため、直接確認することが確実です。
Q5. 外国語対応はありますか?
A. 海外からの来訪者も多いお店ですが、英語対応については直接問い合わせることをすすめます。文字に頼らなくてもカウンター越しに目の前の料理が伝わる空間であることが、みかわ是山居の魅力の一つでもあります。
Q6. 天ぷらのコース内容を事前に知ることはできますか?
A. おまかせコースのため、当日の食材・内容は当日までわかりません。季節の旬の食材が中心となるため、「今日何が揚がるか」というサプライズ感もみかわ是山居の楽しみ方の一つです。
Q7. 天ぷらの料金は1コースで完結しますか?
A. おまかせコースの料金に天ぷら・ご飯・汁が含まれます。飲み物代は別途かかることが多いため、トータルの予算は予約時に確認することをすすめます。
Q8. 子どもを連れて行けますか?
A. カウンタースタイルのお店であり、揚げたての油を扱う環境のため、小さな子どもの連れ込みは難しい場合があります。事前に相談することをすすめます。
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まとめ——みかわ是山居が体現する江戸前天ぷらの精神
「天ぷらの神様」と呼ばれる早乙女哲哉氏が守り続けるみかわ是山居は、単なる有名店ではない。江戸前天ぷらという文化が持つ本質——素材を活かす揚げの美学、旬を最優先する食材の選定、一切妥協しない職人の姿勢——が、このカウンター一本に凝縮されている。
天ぷらコースの予算と内容と比較してみると、みかわ是山居のコースが高価に見えるかもしれない。しかし、半世紀以上の修業と研鑽の末に生み出された一皿の価値を考えれば、それは単なるコスト計算とは別次元の話だ。
訪れるなら、ぜひ予約時に「初めての訪問です」と伝えてみてほしい。おそらく早乙女氏か店のスタッフが、その日揚がる食材について丁寧に教えてくれるはずだ。
みかわ是山居への訪問は、江戸前天ぷらの哲学と向き合う時間でもある。天ぷら名店ランキングに並ぶ有名店の中でも、早乙女哲哉氏が作り出す空間は唯一無二だ。
この記事は天ぷらナビ編集部が執筆しました。天ぷらナビは天ぷら専門メディアとして、職人の技術・名店情報・食材の知識を徹底解説しています。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- ヒトサラ「みかわ是山居 早乙女哲哉氏が考える料理の本質」(hitosara.com)
- 致知出版社「いまがベストか——天ぷら みかわ 早乙女哲哉の流儀」(chichi.co.jp)
- KIWAMINO「門前仲町 みかわ是山居 天ぷらの神様が語る料理文化と哲学」(kiwamino.com)
- 厚生労働省 卓越した技能者(現代の名工)2021年度受賞者一覧
- 気象庁 過去の気象データ(1991-2020年平均値)


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